【バンコク藤田悟】タイ下院で28日、タクシン前首相派政党「国民の力党」のサマック党首が新首相に指名されたことにより、タイ政治は民主的な体制に復帰する道筋をつけた。しかし、タクシン派の復権は政界に緊張を招き、復権の是非を巡る国民世論も大きく分断されたままだ。1年4カ月ぶりに権力の座に返り咲くタクシン派主導の政権が安定する道は険しい。
国民の力党のスラポン幹事長は「新政権の最優先政策は経済だ」と述べ、暫定政権で停滞した経済の立て直しを図ることで政権の求心力を高めていく考えを示した。
国民の力党は下院選で、タクシン派の地盤である北部や東北部で圧倒的強さを見せた。タクシン政権時代の庶民向け政策で恩恵を被った人々が期待を託した結果だ。一方、一昨年のタクシン批判デモの舞台だった首都バンコクでは野党・民主党に完敗し、都市中間層のタクシン派不信が根強いことが示された。
新政権はこうした世論を意識しながら、タクシン時代に顕著だった権力乱用や身びいき政治の再来を招かない政権運営を求められる。サマック氏は「タクシン政治の復活」を公約したが、地方重視のばらまき型政治を復活させれば、地方住民には歓迎されても、都市住民の反発を浴びてさらなる国民の亀裂を招きかねない。
クーデターで政権を追われ海外生活を続けるタクシン前首相の帰国問題は、当面の最大の課題だ。「5月帰国」を希望する前首相には汚職防止法違反などで逮捕状が出されている。新政権が、タクシン氏に特別な配慮をすれば、抗議行動が再燃する可能性がある。
サマック氏は批判勢力に対する攻撃的発言を重ねてきた人物だけに、不用意な言動を繰り返せば、反タクシン勢力との対立をあおりかねない。6党連立で下院の3分の2近くの議席を占めているとはいえ、第3党の国民党と第4党の国家貢献党が「タクシン氏への司法手続きに介入しない」などの連立条件を課すなど、新政権は決して一枚岩ではない。